「これからは全員で行動したほうがいいな」
魔術師の提案に皆が賛同した。
「では今から全員の部屋を確認しに行く」
「オイちょっと待てよ」
戦士がその意見に反発。
「お前まだ仲間を疑っているのか。いい加減怒るぜ」
計画的な犯行ではない。
パーティの行き先を決めたのは勇者、この家を宿にすると提案したのも勇者である。犯行は突発的なものだ。
30分という限られた時間に犯行の跡を消すのは難しいだろう。
手がかりはないかもしれないが、それでもわずかな可能性に賭ける価値はある。
「勝手に部屋でも何でも調べろよ。俺はついていかないからな」
「戦士」
「俺はみんなを信じてる。だがお前には失望したよ」
「戦士くん、ちょっと!」
「僧侶も好きにするといい。俺はここで待ってる」
「魔物の仕業かもしれないわ!ひとりになるのは危険よ!」
戦士は床に置いてあった槍を持って見せる。
「魔物なんか俺の槍で一突きさ。心配すんなよ」
そして笑顔で言った。
「なんかあったらすぐ大声で呼んでくれ。俺が助けてやるぜ」
パーティは二手に分かれた。
一階の応接間に戦士、二階に僧侶と魔術師。
全員装備をしっかりと整えている。
「東から調べる」
魔術師は戦士の部屋のドアを開けた。「戦士から調べる」ではなく「東から調べる」と言ったのは彼なりの気遣いなのか。
殺人に使った凶器。
これが犯行の決め手になる。
身に着けている武器は戦士が槍、僧侶がメイス、魔術師が杖。
この中で刃が付いているのは戦士だが、槍では逆に勇者の傷口が小さすぎる。勇者自身の武器、剣も同様である。
犯行に使われた凶器は別にある。
そして現場に凶器がないということは、自殺ではない。
凶器を隠すのは簡単だ。窓を静かに開けて外に投げれば闇が隠す。それでも密室状態の勇者を殺害した方法が分からない以上、この手がかりを追う他ない。もし仲間全員を殺害しようと企んでいるならば、捨てずに隠している可能性もある。
魔術師が念入りに戦士の部屋をチェックしていると、どこからか泣き声が聞こえてきた。
「もう…やめて…」
僧侶が部屋の入り口で泣いていた。
「どうしてこんなことに…私たち…仲間じゃないの…」
「俺もそう思いたい。だが、犯行が完璧すぎるんだよ。我々以外の仕業だったら密室にする必要などない。密室になったのは犯行を隠そうとした証拠でも…ある」
魔術師は密室の抜け道まで言わなかった。
戦士の部屋から手がかりは見付からなかった。
「次は俺の部屋だ。僧侶、行こう。お前が調べるんだ」
僧侶は顔を手で覆ったまま首を横に振った。
「僧侶、お前が調べないと意味がないんだ」
「私あなたを信じてるもの…!調べる必要なんてないわ…!」
僧侶はまったく動こうとしない。
魔術師はため息をついた。
「…わかった、それじゃお前の部屋を調べさせてもらう」
僧侶は顔を隠したまま、首を縦に振った。
廊下に出る魔術師。戦士の部屋のドアは開けたままだ。
閉めないのは僧侶の動向を音で確認しやすくするためか。
魔術師は僧侶の部屋に入った。ドアは閉めない。
お互いの行動を瞬時に確認できるこの状況では、戦士以外ヘタな行動ができないだろう。
二人が2階に行ってから15分後、窓ガラスの割れる音がした。
それから10秒ほど経って、僧侶の甲高い声が家中に響く。
戦士が荒々しく階段を駆け上がると、僧侶が尻餅をついて口を押さえている姿が見えた。場所は僧侶の部屋の前。
「だいじょうぶか!」
開いたままのドアを見て絶句している僧侶。
戦士が駆けつけ、そのドアの向こうを見ると。
「ど… どういう… ことだ…?」
そこには床に血を広げた魔術師がうつ伏せに倒れていた。