事件の概要をまとめるとこうなる。
日が暮れ、町まで遠いと判断して野宿をしようとしていたところ偶然にも無人の一軒家を発見したのが午後6時。
無断借用になるのでは、という仲間の意見に「魔王倒したんだからいいじゃん」という勇者の軽いノリで宿泊することに。
一軒家は2階建てで汚れもほとんどなく、2階は幸いにも4人部屋になっていた。旅の宿屋が放置されていたようだ。
4人がそれぞれ自分の部屋を決め、そこで別れたのが6時10分。
部屋はまず戦士が東端を選び、次に勇者が西端、僧侶がその隣、最後に余った部屋に魔術師という順番で決まった。
それから各々が自分の部屋の整理等をし、午後6時30分、僧侶の悲鳴が勇者の部屋から聞こえてきた。
これが勇者殺害事件のあらましである。
この約20分の間、ドアの開閉の音が聞こえたのは2回だけ。
6時30分に僧侶の部屋から、次いで勇者の部屋。単純に僧侶が勇者に会いに行ったということ。
戦士はキレイ好きなため念入りに掃除していたようで、部屋から頻繁にゴソゴソと音が聞こえていた。
この音は20分止むことはなかった。
つまり、戦士以外は自分のアリバイを証明することができない状況である。戦士も完璧なアリバイというわけではない。
魔術師が「犯人はこの中にいる」と断定した根拠について。
このRPGにおいてHPという概念は傷の度合いを示したものではない。
敵から致命傷を回避する力を示している。剣道で面を竹刀で受ける力と言い換えてもいい。HP0とはすなわち致命傷を回避できない状態を指す。
イベントでHP9999のキャラが突然殺されたりするのは、この致命傷を回避する力を通り越して肉体に損傷を与えるためである。
戦闘中HP0の仲間が敵のターゲットにならないのは、もちろん仲間がしっかりガードしているためだ。
勇者のHPは限界まで成長しており、短時間で戦闘に敗北することは極めて考えにくい。これにより勇者は強制イベントによって殺されたと断定したわけだ。
そして犯人が仲間の中にいるという推理について。
勇者が戦闘に突入することなく殺害されたということは、勇者がその対象を敵と認識していないからである。
無人と思っていた自分の部屋に誰かがいた場合、まず誰であろうと警戒するはずだ。その警戒すらないということはイコール仲間であったと推測される。
一階の応接間で3人が沈黙してから1時間が過ぎようとしていた。
現在時刻は7時50分。
そして魔術師は突然口を開いた。
「単独犯だ」