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人間ラボ #6

2011/03/28

 ガニメデとアルテミスは、ラボのゲートにいた。外には車が停めてあった。
「荷物はいいのかヘルメス、もう行くぞ?」
 手ぶらの私を見て、ガニメデは不思議そうな顔をしていた。
「待たせておいて申し訳ないが、私はラボに残る」
「やめてヘルメス!あなた何を言ってるの!」
 アルテミスが真っ青な顔になった。
「残ったって研究なんてできないでしょう!早く逃げましょう!」
「研究のために残るんじゃないんだ」
「いやよそんなの!みんなで逃げましょう!」
 アルテミスは私の腕をグイグイと引っ張った。
「正気かよヘルメス。お前、頭イカれたんじゃねえか?」
 ガニメデは呆れていた。
「バイオハザードだよ。あそこは気が狂うウイルスが蔓延してんのさ。お前ひょっとして、もうウイルスに感染してんじゃねえのか?」
「やめてガニメデ!そんなこと言わないで!」
「どっちにしろ逃げる気ねえんだろ。先に車に乗ってるぜ」
 ガニメデは肩をすくめてゲートを出て行った。
「行きましょうヘルメス」
「いや、私はここに残る」
「どうして?さっきまで一緒に逃げるって言ってくれてたじゃない。どうして急に残るなんて言うの?」
「確かめたいことがあるんだ。それが終わったら出て行くつもりだよ」
「トリトンね?あいつが余計なことをあなたに吹き込んだのね」
「大丈夫。私は死んだりしない」
「あなたは騙されてるのよ。自殺なんかじゃない、みんな殺されてるのよ!そうよ、最後までラボに残った人間に!」
「落ち着いてアルテミス」
「トリトンが殺してるんだわ、そうとしか考えられない!」
 アルテミスがグイグイと私の腕を引っ張る。どうしても私をラボに残らせないつもりらしい。私はそれに逆らわず、彼女と一緒にゲートを出て車の前まで歩いた。
 車のドアの前に来てもアルテミスは私の腕を離さなかった。
「これじゃ車に乗れないよ」
 不安そうな顔でアルテミスは私の腕を離した。私は後部座席のドアを開けて運転席のガニメデに目で合図をした。
「アルテミス、心配してくれてありがとう。ラボを出る時に必ず連絡を入れる。だから安心して」
 アルテミスを後部座席に押し込み、車は発進した。
 彼女の叫ぶ声が次第に小さくなっていった。

 ラボに残った人間は、私とトリトンの二人だけになった。

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