人間ラボ #3
2011/03/25
[2023 May.20] 私はトリトンの前に一冊のノートを置いた。
「どうしてラボに残ったか教えてほしい」
昨日、イオ室長に「言え」と言われた言葉そのまま一字一句違えず伝えた。考えるのも面倒だったし、早く終わらせてイオ室長を納得させたかった。
トリトンは中身も見ずにノートを私に付き返した。
「これをどこで?」
トリトンは虚ろな目をしていた。この世の何も興味がないようにも見えた。
「フィジク室の資料室から出てきた」
「イオ室長が見付けたのか?」
「そうだ」
「なぜイオ室長ではなくキミがここにいる?」
どう答えるべきか。ありのままを伝えたら彼は口を閉ざすだろう。さっさとお使いを済ませるだけならそれでも構わないのだが、彼の信用は無くしたくない。
「イオ室長に頼まれたんだ」
しかし私はありのままを伝えた。そうするしかなかった。
「俺には、ここを去る理由がないからだよ」
トリトンは力なく笑った。ラボに残った理由がそれなのか。
「イオ室長は離脱が集団自殺の原因だと思っている。トリトンはどう思う?」
「どう思うも何も、離脱はサイコ室のキミが一番よく知っているんじゃないか?」
「もちろん私は関係ないと思っている」
「なら、そういうことだろ」
何か引っかかるが、これ以上粘ってもトリトンから情報は引き出せそうにない。私は諦めてケミク室を後にした。
イオ室長に報告するか。
しかし満足いく情報は何も得られていない。過剰に期待をかけられていた分、報告するのは気が重かった。
次の日、イオ室長が死んだ。
警察は自殺だと断定した。
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